「怒らない育児がいい」と言われることが増えました。
でもその言葉を聞くたびに、
私はどこか居心地の悪さを感じていました。
私は、普段あまり怒りません。
だからといって、何も感じていないわけでも、
何も伝えていないわけでもありません。
それでも周りからは、
「どうして怒らないの?」
「それで伝わっているの?」
そんな目で見られることがあります。
一方で、
怒ってしまって後悔している人の話も、
身近でたくさん聞いてきました。
怒らないほうがいいとわかっているのに、
感情が先に出てしまう。
怒ってしまったあとで、自己嫌悪になる。
怒る側も、怒らない側も、
実はどちらもしんどい。
あるとき気づきました。
問題は「怒るか・怒らないか」ではなく、
感情が動いた瞬間に、
どうやって行動を選び直せるかなのではないかと。
この記事では、
怒る人を責めるためでも、
怒らない親を正解にするためでもなく、
感情が爆発する前に割り込ませる考え方と、
私自身が続けてきた工夫をまとめています。
完璧にできなくても大丈夫。
「次は少し違う選択ができたらいい」
そう思える人に、届けば嬉しいです。
怒ってしまうのは、意志が弱いからじゃない
怒ってしまうと、「もっと冷静になれたはず」「私の我慢が足りない」と、自分を責めてしまいがちです。
ですが、怒りが先に出てしまうのは、性格や意志の弱さだけが原因ではありません。
そこには、脳の仕組みが大きく関わっています。
感情が先に動く脳の仕組み
私たちの脳には、**危険や不快を察知してすぐ反応する部分(扁桃体)と、
状況を整理して判断する理性の部分(前頭前野)**があります。
子どもが危ない行動をしたり、何度言ってもやめなかったりすると、
まず反応するのは「考える脳」ではなく、感情の脳です。
そのため、
- 気づいたら声が大きくなっていた
- 言葉を選ぶ前に怒鳴ってしまった
ということが起こります。
つまり、
「考えてから怒ろう」とすること自体が、その瞬間には難しいのです。
怒ってしまうのは、失敗ではなく、
脳が「今すぐ止めなきゃ」と判断した結果でもあります。
だからこそ必要なのは、
感情を完璧にコントロールすることではなく、
感情が爆発する前に、少しだけ割り込ませる工夫なのだと感じています。
私は「怒らない親」でいたいわけじゃない
よく「怒らなくてすごいね」と言われることがあります。
けれど正直に言うと、私は「怒らない親」でいたいと思っているわけではありません。
怒る場面は、ちゃんとあります。
命の危険があるとき、周りに迷惑がかかる行動をするとき。
そういうときは、語気を強めてでも止めます。
ただ、普段から感情的に怒鳴ることを選んでいないだけです。
「怒らない育児」という言葉が広まる中で、
怒らない=何も言わない
怒らない=我慢している
そんなふうに見られることに、もやもやした気持ちを抱えていました。。
私が考えているのは、
怒るか・怒らないかではなく、
どう伝えたら、その行動が止まるかです。
感情をぶつけることと、伝えることは、まったく別のものだと気づきました。
そう考えるようになってから、
「怒らない」というラベルにこだわる必要はなくなりました。
だから私は、
怒らない親を目指しているわけでも、
怒る親を否定したいわけでもありません。
感情が爆発する前に、
ほんの一瞬、別の行動を挟めないか。
その試行錯誤をしているだけです。
感情が爆発する前に、割り込ませた3つのこと
怒りが湧いてくる瞬間は、驚くほど早いです。
「イライラしてきた」と気づいた次の瞬間には、もう声が荒くなっている。
「落ち着こう」と考える余裕なんて、ほとんどありません。
怒らない私も、カッとなる瞬間は、あります。
そんな時は感情を抑えようとするのではなく、
怒りが言葉や声になる前に、必ず挟む行動を決めておくことにしました。
ここから紹介するのは、
うまくできた日も、できなかった日もありますが、
それでも「爆発する回数」を確実に減らしてくれたものです。
全部やる必要はないです。一つでも合うものがあればぜひ、試してください。
声掛けについては、モンテッソーリの考え方がとても参考になりました。
実際に私が意識している言葉選びは、こちらの記事にまとめています。
① 怒鳴る前に、まず名前を呼ぶ【アンガーマネジメント】
怒りが込み上げたとき、
最初に出そうになるのは「ダメ!」や「やめなさい!」でした。
それを、子どもの名前を呼ぶことに変えました。
「○○、ちょっと待って」
内容は言いません。
注意もしません。
まずは、怒鳴らずに声を出すことだけを目的にします。
名前を呼ぶと、不思議と声のトーンが変わります。
怒鳴る前の勢いが、少しだけ弱まる。
それだけでも、次の言葉を選ぶ余地が生まれました。
なぜ名前を呼ぶのか?
名前は、その子だけに向けた言葉です。
「ダメ」「やめて」は誰にでも使えるけれど、名前はその子だけのもの。
だからこそ、怒りの勢いより先に、その子への意識が立ち上がるのかもしれません。
② 立ち位置を変える(半歩下がる・横に回る)
怒りが強くなるとき、
私はいつも子どもにぐっと近づいていました。
距離が近いほど、
声も、感情も、大きくなりやすい。
そこで、半歩下がる、
もしくは横に回ることを意識しました。
体を動かすだけで、
頭の中のスイッチが少し切り替わります。
アンガーマネジメントでは「6秒待つ」とよく言われますが、
カッとなった瞬間に6秒数えるのは、正直難しい。
でも、立ち位置を変えることなら、できそうじゃありませんか?
体を動かしている間に、自然と数秒が経過していることもあります。
③ 「ダメ!」ではなく、いま起きていることを実況する【モンテッソーリ式】
怒りの勢いで出る言葉は、
ほとんどが「禁止」です。
「ダメ」
「やめて」
「何回言えば分かるの」
それを、いま起きていることをそのまま言葉にするようにしました。
「走ってる」
「車が来てる」
「ごはんが落ちてる」
評価も、説教も入れません。
事実だけを短く伝えます。
自分の感情を乗せない分、こちらもヒートアップしにくく、子どもにも届きやすいと感じました。
実況された言葉は、子どもが自分で「次にどうすればいいか」を考える余地を残します。
「走ってる」と言われたら、「あ、走っちゃダメなんだ」と自分で気づくこともある。
これは、モンテッソーリでいう「子どもの自己教育力」につながる関わり方だと感じています。
実はもう一つ、先に決めていること
①〜③の方法と合わせて、実はもう一つ大切にしていることがあります。
それは感情が動く「前」、つまり平常時にやっておくことです。
それは、
強く怒る場面を、先に限定しておくことです。
私が「迷わず強く止める」と決めているのは、次の2つだけです。
① 命の危険があるとき
- 道路に飛び出す
- 高いところから飛び降りようとする
- 熱いもの・危険なものに触れようとする
② 周りの人に大きな迷惑がかかるとき
- お店で走り回る
- 公共の場で大声を出し続ける
- 他人の物を壊そうとする
この2つの場面では、語気を強めることもありますし、体を使って止めることもあります。
この場面では、声を強めることもありますし、
体を使って止めることもあります。
あとから振り返って、「言いすぎたかな」と悩むことは、ほとんどありません。
一方で、それ以外の場面では、
感情の勢いで怒鳴らない、という選択をします。
こうして
「ここは強く止める」
「ここは別の方法を選ぶ」
と線を引いておくことで、
その場で判断に迷う時間が、かなり減りました。
怒るか、怒らないか。
その場で考え始めると、感情に引っ張られてしまいます。
だからこそ、
考えるのは、落ち着いているとき。
あらかじめ決めておくことで、感情が動いた瞬間にも、「戻れる場所」ができます。
カッとなったとき、頭の中で「これは①命の危険? ②迷惑? それ以外?」と問いかける。
たった1秒の自問自答ですが、これが怒りの暴走を止めてくれることがあります
怒らないことが目的ではなく、
怒りを使う場面を選ぶこと。
それが、私がもう一つ大切にしていることです。
子どもの状態を見る余裕が、ほんの少し生まれてきたのです。
④ あらかじめ「強く怒る場面」を決めておく
3歳になった我が家の双子は、家で遊んでいるときに喧嘩になることもあります。
ある日、取り合いになったおもちゃをめぐって、片方がもう一人の髪の毛を引っ張りました。
-私はすぐに二人を引き離し、髪の毛を引っ張ったほうに、
「おもちゃを貸してほしかったんだね。(気持ちの理解)
でも、髪の毛を引っ張るのはだめだよ。(行動の注意)
痛いから。(理由)
貸してって言おうね。(代替案)」
と伝えました。
感情をぶつけるのではなく、起きた事実(攻撃したこと)はきちんと注意する。
私が意識しているのは、そこです。
では、「強く介入する場面」とそうでない場面を、
私はどう区別しているのか。
参考までに、実際に作っている「介入レベル表」を紹介します。
これは育児書に載っているものではなく、
我が家の双子との生活の中で、試行錯誤しながら作ってきたものです。
※この数字は「怒りの大きさ」ではなく、親がどれくらい強く介入するかの目安です。
10 命の危険があるとき
→ 大きな声を出して注意する
9 前を見ずに走る
→ 大きな声を出して注意する
8 人・友達をたたく
→ 手をつかんで「それはだめ」と強く伝える
7 飲食店で椅子の上に立ち上がる
→ 体を支えて降ろし、「立たないよ」と短く伝える
6 人のもの・店のものを勝手に取る
→ 手を止めて「それは取らない」とはっきり伝える
5 怒って泣いているとき
→ 「どうしたの?」と理由を聞き、こちらが間違っていたら「ごめんね」と先に謝る
4 家のリモコンなどを投げる
→ 「リモコン、いたいいたいだね」と実況する
3 家でご飯を投げる
→ 「あとで一緒にご飯を片づけようか」と声をかける
2 ご飯を残す
→ 基本的には何も言わず、「もうおしまいね」と伝える
1 動画を見続ける
→ アラームをセット
→ それでも見続ける場合は「終わりにしない?」と声をかける
→ 終わるまで「パズルしない?」「新幹線であそぶ?」など代替案を定期的に提案する
『怒らない育児』の誤解|何も言わないことではない
「怒らない育児」と聞くと、
何をしても注意しない、叱らない、親が我慢する。
そんなイメージを持たれることがあります。
でも、私が考えている「怒らない」は、
何も言わないことでも、放置することでもありません。
言うべきことは言う。
止めるべき行動は止める。
ただし、感情をぶつけることを最優先にしない、というだけです。
怒る場面を減らすことが目的じゃない
怒る場面を減らすことが目的じゃない
「今日は怒らなかった、えらい」
「また怒ってしまった、ダメだ」
そんなふうに、怒った回数で自分を評価してしまうと、
育児はどんどん苦しくなります。
怒りたくて怒っている人なんて、いないはずです。
最終的には、子どもの行動がよくなってほしいと思っているはずです。
だから、本当に大切なのは、 怒る場面を減らすことではありません。
怒るかどうかより、 その関わり方が、次につながるかどうか。
怒鳴ったから一瞬止まったとしても、
同じことを繰り返すなら、それは解決とは言えません。
逆に、時間はかかっても、 少しずつ行動が変わっていくなら、
それは「怒っていなくても伝わっている」ということだと思っています。
子どもが自分で正しく行動できることが本当のゴール
私が目指しているゴールは、
親の言うことを聞く子にすることではありません。
・危ないことは危ないとわかる
・人を傷つける行動はしない
・困ったときに、別の方法を選べる
そうやって、自分で正しく行動できるようになることです。
そのためには、
「だめ!」と止めるだけで終わらせず、
どうすればよかったのかを、少しずつ伝えていく必要があります。
怒りをぶつけて従わせるより、
行動の理由と結果を理解できるほうが、
長い目で見て、子ども自身が楽になります。
怒らない育児は、優しさ競争ではありません。
我慢比べでもありません。
目的は、親が穏やかでいることではなく、
子どもが正しく行動できるようになること。
そのための手段として、
私は「怒りの使いどころ」を選んでいます。
最初はできなくて当然。親も子どもも練習中
ここまで読んで、
「そんな余裕、毎回は持てない」
そう思った方もいるかもしれません。
実際、私もまだまだできていません。
注意するバリエーションをもっと増やしていきたい。
名前を呼ぶ余裕もなく、
立ち位置を変えることも忘れて、
ただ茫然と眺めて、時が過ぎるのを待つ。
そんな日も、何度もありました。
それでもいいと、今は思っています。
感情をコントロールすることは、
一度わかったらできるようになるものではありません。
感情は、練習しないと扱えるようにならないからです。
最初は、
「今日もうまく言えなかった」
「結局上手にいって納得してもらえなかった」
その繰り返しです。
でも、何度も同じ場面を経験するうちに、
少しずつ見えてくるものがあります。
この子は、何に困っているのか。
なぜ今、この行動を選んだのか。
怒る・怒らないの二択で見ているときには、
見えなかった部分です。
子どもが練習中なのと同じように、
親も、感情との付き合い方を練習しています。
完璧にできなくても、
たまに割り込ませられたら、それで十分。
怒ることと、
カッとなる感情を、
少しずつ分けて考えられるようになる。
それができるようになると、
怒ってしまった自分を、必要以上に責めなくなりました。
育児は、結果を急がなくていい練習です。 子どもと一緒に、親も育っていく。
私は今も、練習中です。 あなたも、一緒に。
まとめ|怒りをなくすより、使いどころを選ぶ
「怒らない育児」という言葉に、
どこか苦しさを感じてきました。
怒らないことが正解で、
怒ってしまう自分はだめな親。
そんなふうに思ってしまうことがあったからです。
でも、怒りはなくすものではなく、
使いどころを選ぶものなのだと思います。
命の危険があるとき。
周りに大きな迷惑がかかるとき。
そこでは、強く止めていい。
それ以外の場面では、
感情をぶつける前に、
ほんの一瞬、別の行動を割り込ませてみる。
完璧にできなくても大丈夫。
親も子どもも、練習中です。
明日から始めるなら
まずは①「名前を呼ぶ」から試してみてください。 一番シンプルで、取り入れやすい方法です。
もし①〜③が難しいと感じたら、④「怒る場面を決めておく」だけでも効果があります。 落ち着いている今、紙に書き出してみるのもおすすめです。
全部やる必要はありません。 一つでも、あなたに合うものがあれば十分です。
怒ることと、カッとなる感情は、同じではありません。
感情は自然に湧いてくるもの。 でも、それをどう表現するかは、選べるもの。
その違いに気づけたことが、私にとっての大きな一歩でした。
同じように、この記事があなたの一歩になれば、これほど嬉しいことはありません。

